2023年3月24日付け京都新聞社会面の記事。兵庫県の障害者5名が国に損害賠償を求めた強制不妊問題訴訟で、23日大阪高裁が旧優生保護法下で不妊手術を強いられたのは憲法違反だと判断、国に総額4950万円の賠償を命じる判決を下しました。これまで被害者救済の高い壁だった損害賠償請求権が消滅する20年の「除斥期間」を適用しませんでした。
判決では、原告らが賠償請求権を行使するのが困難な状況を国が作り出したとして、「除斥期間」を適用するのは「正義・公平の理念に反する」と判断し、旧法は個人の尊厳を著しく侵害するもので、国は改正したり補償処置を講じるなどの責任を負うにもかかわらず、その責任を果たしてこなかったと指摘しました。
3月24日夕刊1面。これまでも熱心にこの問題について報道している京都新聞が、優生保護法下で行われた滋賀県における強制不妊手術に関する公文書の公開を求めた裁判で、大津地裁は手術に向けた手続きに関する情報などの開示を滋賀県に命じました。この問題に関する公文書開示を認めた判決は全国で初めてだそうです。
開示すべきとされたのは、手術の根拠となった生活歴(職業と就労関係の情報は除外)・病歴の情報や、手術に関係した医療機関の名称(医師名を除く)、年齢などだそうです。異性関係や出生の情報、遺伝情報、手術に関する親族らの意向に関する情報などは「秘匿性が守られるべき」として非開示になりましたが、円城編集局長のコメントに見られるように「大きな前進」だと思います。
京都新聞が2017年に滋賀県に開示を求めたところ、大半が黒塗りにしての開示でしたが、県の第三者機関は非開示部分のほぼ全てとなる449か所の開示を県に答申。けれども347か所を再度非開示としたことから、2020年に京都新聞が開示を求めて裁判を起こし、その判決が24日滋賀県に対し、公文書開示の命令が下されたというもの。
記事によれば、「対象者をだまして手術に持ち込むことを国が容認していたため手術を受けた自覚が無かったり、経緯を知らなかったりする人や、障害や差別ゆえ訴え出るのが難しい人が多い」とのこと。少なくとも、「障害や差別ゆえ」の部分は社会の問題として、一人一人がその考え方の見直しを押し進めるべきです。
第1回口頭弁論から2年5か月に及んだ裁判を、ほぼ欠かさず傍聴した脳性麻痺がある女性は「開示された情報は被害者救済の大事な資料。人としての権利を奪った過去を知り、同じことを二度とくりかえさないようにしてほしい」と願う。そしてご自分にかつて掛けられた「生理あるんか?自分で後始末できるんか?」と言われた体験があり、「生理の始末を自分でできないと入所できないと言われ、勧められるままに卵巣にコバルト照射する手術を受けた故・佐々木千津子さんの体験と被さって「自分も手術されて被害者になっていたかもしれない」と恐ろしく思ったと話しています。
報告集会でこの女性は「障害者に対する性暴力を社会全体が主導し、正当化してきた。裁判で一部開示が認められたことで、全国で開示されるようになれば」と話しておられます。
26日付け京都新聞で「報道機関の情報公開訴訟」について識者の見解が載っています。そこから引用すると、日本で報道機関が訴訟に関わるのは名誉棄損で訴えられるなど受け身であることが多いですが、アメリカでは言論機関が戦うことによって表現や言論の自由が拡大したという側面すらあるくらい訴訟が珍しくないそうです。その上で「訴訟によって、適切な情報開示のあり方など、より良い形に変えていける。報道機関は必要があれば躊躇することはない。取材の延長というだけでなく、情報公開制度を活性化させるためにも意義がある」と述べておられます。京都新聞森敏之記者の奮闘に拍手を送ります。そしてこの判決結果が全国に広がって、この問題の実態解明に繋がることを期待しています。
そして、今日3月29日付け対向面。24日の大津地裁の判決を受けて、滋賀県知事は「控訴を含めて対応を検討する」と述べたそうです。このような動きの中でもまだ「控訴」の文字が出ること自体を残念に思います。判決では開示を求めた約320か所の内、200か所以上の開示を命じました。個人情報に充分配慮しつつも、強制不妊手術の実態解明や被害者救済に繋がるよう一日も早く各地で情報が公開されることを期待します。
それにしても、ここ最近強制不妊問題に関するニュースの多いことに驚きます。風は被害者救済に吹いています。国や自治体は真摯に被害に遭った人々の声に向き合い、控訴や上告などをせずに救済に向けて動いて欲しいです。これ以上の法廷闘争は、高齢になっている被害者やその家族をいたずらに疲弊させるだけです。そしてまだ差別や偏見を恐れて声を挙げられずにいる人たちに対しても、プライバシーに配慮しつつも個別情報を提供して、補償を受けられるようにしていって貰いたいです。