2023年02月

IMG_20230226_0001
これまでの裁判で高い壁だった「除斥機関」について、増田裁判長は「手術を強いられた事実を当事者の女性(聴覚障害者)が知りえない状況は国がつくった」として適用しませんでした。

ご本人は体調がすぐれず裁判には来られなかったようですが、支援者の中にも聴覚に障害がある人々がおられたのでしょう、要約筆記者を用意して、裁判長が読み上げる判決理由を筆記してスクリーンに映し出し、情報を共有されていたようです。「手話で喜ぶ支援者ら」と書いた写真が添えられています。静かな中にも喜びが溢れている様子が伝わってきます。良かったですね‼

国は恐らく控訴するのでしょうが、被害に遭った人々はもう高齢です。残された日々を思うと、国には、控訴しないで長い間苦しんでこられた被害者の気持ちに沿って、救済してあげて欲しい。どうぞお元気な間に、謝罪して、少しでも気持ちを安らげるようにしてあげて欲しいと願います。

「ケイコ」チラシ表

「ケイコ」チラシ裏
話題の映画『ケイコ 目を澄ませて』を観てきました。実在の女性元プロボクサー小笠原恵子さんが書かれた『負けないで!』(創出版刊)をもとに、聴覚障害と向き合いながら実際にプロボクサーとしてリングに立った彼女の生き方に着想を得た三宅唱監督が、新たに16ミリフィルムで創り出された映画です。

326947952_1147745689269880_6404472863594692575_n
遅まきながら、2月1日の第96回キネマ旬報ベスト・テン発表のニュースで本作が聴覚障害者を主人公にした映画で手話が出てくると知り、出町座11時50分からの上映に参加しました。48席の小さなシアターではありましたが満員のお客様が、まんじりともせず、99分間スクリーンに静かに見入りました。
329160759_1266010850964170_6609719425413804878_n

実は、2月9日に、第4回事業として「やってみよう、手話!」(5月4日実施計画)のプレゼンをしないといけないので、その折の参考になればと出かけたのですが、「世界中の映画祭で絶賛‼」されるだけあって、素晴らしい作品でした。もし、まだご覧になっておられないのでしたら、お勧めします‼

先に「第96回キネマ旬報ベスト・テン」と書きましたが、『ケイコ 目を澄ませて』は日本映画1位、三宅監督が「読者選出日本映画監督賞」、主演の岸井ゆきのさんが主演女優賞、ボクシングジム会長役の三浦友和さんが助演男優賞と4冠を獲得。

それよりも早く1月18日発表の第77回毎日映画コンクールでも日本映画大賞、監督賞、主演女優賞、撮影賞、録音賞の5冠を獲得しています。海外の映画祭にはすでに20以上も招待されているそうで、映画は言葉を越えて、国境を越えて、世界中の人々に感動を与えています。

手話に関していえば、東京都聴覚障害者連盟事務局長の越智大輔さんが監修し、同連盟の職員さんと手話あいらんど「きいろぐみ」のスタッフさんが指導されたそうです。監督はじめスタッフの皆さんが徹底してリアリティーにこだわって真剣だったことから、手話担当の皆さんは、それぞれが脚本を読み込んで、これまで以上にリアリティーを重視して、心情や個性や習得状況なども考慮しながら手話表現を工夫されたそうです。そういった視点でこの映画を観てみるのも良いですね。手話は単なる記号、サインではなく、心を通わせる言葉なのだと改めて思いました。

聴覚障害の主人公と健聴者の弟が手話で会話する場面などで字幕が入る場面もありますが、主人公が聾者の友達二人と隅田川が見えるカフェのテラスで楽しそうに会話する場面には一切字幕がなく、手話が分からない人たちにとっては、何を話しているのか一切分からず、彼女たちの表情から想像してみるだけ。これは耳が聞こえない聾者の人たちにとって健常者の人々が一体何を話しているのか一切分からないという状況を、客観的に体験してみる演出なのかもしれません。

音楽についても、背景にある音楽で感情を盛り上げる“劇音”がなく、代わりに実際に縄跳びをする音、蛇口から流れる水の音など普通に健聴者が意識することなく聞こえている生活音で構成されています。聾者にとっては、こうした普通の音も聞こえない世界なのだと気付かされもします。

昨年10月の手話映画『ヒゲの校長』資料展の時、来館いただいた聾者に手回し映写を体験して貰った時、「カタカタ鳴るこの音を知ってもらいたかった」と話す私に、彼女は「大丈夫、手の振動でわかります」と話して下さったことを思い出します。

16ミリフィルムで撮影された良さについてここでは省きますが、フィルムならでは良さが発揮されていました。撮影賞、録音賞を受賞されたのは頷けますが、照明賞もあげたい作品でした。高価で貴重なフィルムでの撮影なので、失敗は許されず、綿密な計画を立てて撮影に臨まれたようですが、その分、出演者、スタッフ共々集中して撮影に臨まれ、結果的に良い仕上がりに。監督ご自身「デジタルで撮影していたら、根本的に全く違う映画になっていただろうと思うぐらい重要な選択だった」と話しておられます(パンフレットより)。

先日コダックの人が来館された折りの話では、今16ミリフィルムの生産が間に合わないぐらい、フィルムへの回帰が進んでいるそうです。国策でアナログからデジタル推進に一方的に進めてきた日本では、「もはやフィルムは過去のもの」と思っておられる人が大半だと思いますが、実際には、フィルムのクオリティの高さによる豊かな表現力、何よりモノとして残る安心感があります。フィルムの良さ、デジタルの良さ、それぞれの長所を生かしながら安心して作品が作れる環境づくりが一番ですね。

この映画を観て一番良いなぁと思ったのは、障害を前面に出していないこと。主人公のケイコが何を考えて、どう感じて、どう生きているのかということを主人公に自分を重ねてみることが出来たことです。

とはいえ、越智さんは「現在でもプロテスト受験には日常生活に支障のない聴力が条件になっており、小笠原さんがプロになるためには様々な苦労があったことが推察される。ゴングの音や指示が聞き取れないこと、危険性の問題など難しい点はあるだろうが、100年の歴史を持つデフオリンピックではスタートのピストル音を光信号に変えたり、ホイッスルの音を旗で知らせるなどの工夫をすることで、聞こえる人とほとんど変わらない条件で競技を行っており、オリンピックに出場した聴覚障害者もいるし、キックボクサーやプロレスラーになった聴覚障害者までもいる。」と述べておられます。こうしたことは正直知らないでいましたが、この映画を通して、障害者への理解が社会全体で進むことを願いますし、競技実施に関しても合理的配慮でバリアフリーが進むことを期待したいです。

↑このページのトップヘ