国内初のオストメイトモデルとして活躍を始められた医師のエマ・大辻・ピックルスさんが、作家の落合恵子さんと対談され、その様子が『通販生活』2021春号に掲載されています。107~112頁まで、写真9枚を用い、6頁に亘ってたっぷりと書いてあります。カラーでないのが惜しいですが、お二人並んでの写真は、とても穏やかで美しいです。
最初に大きな文字で書かれているのが「日本全国に21万人いるオストメイトという存在をあなたはご存じですか。」でした。私どもが昨年11月21日に無事開催することができた初めての催し「語りと映画で知る『ストーマ』のこと」のタイトルと重なり、嬉しく思いました。というのは、広く一般の人々に対して、オストメイトのことを知ってもらいたいという目標が共通するからです。
オストメイトとは、ストーマ造設者のことを指し、生まれつきや病気、ケガなどによって便や尿を排出するための機能が失われた人に、排泄するための口(ストーマ)を手術でつくり(人工肛門・人工膀胱)、そこに排泄物を受け止めるパウチと呼ばれる袋を装着します。
これは、11月21日の参加者に見て貰ったパウチです。皮膚を切って体外に出した腸の出口を丸い穴に入れます。貼ると痒くなる場合もあり、外れると漏れて大変なことになります。オストメイトの方は、これを四六時中付けて生活されています。透明なので中身が見えます。ストーマや便の状態を確認するには良いのかもしれませんが、人目が気になるのでどうしても隠して生活することに。
これはエマ先生に以前送って貰った海外のパウチの写真です。黒色や透明でないものは中身が見えずに人の目を今よりは気にしなくても済みます。エマ先生は国内唯一のメーカーであるアルケア㈱さんに直接装着されている実際を見せながら、中身が見えないパウチ製造を依頼されました。開発者さんはエマ先生の話を聞いて、新しいパウチ開発を決めたそうです(これは10月2日NHK「ニュースシブ5時」と11月16日続編「ストーリーズ」から)。
ちなみに、『通販生活』記事からの情報では、日本でパウチが発売されたのは1960年代で、それ以前はお椀などの日用品を用いて対応していたのだそうです。11月21日80歳代の参加者から「昔はこんなに良い装身具(パウチ)がなくて、皆さんとても苦労されていた」とお聞きしましたが、つくづく今の時代で良かったなぁと思います。
さて、日本にはオストメイトが「21万人いる」そうですが、その半分以上は直腸癌などの大腸癌系の病気でストーマをつくった人だそうです。日本人の食生活の欧米化が進み、今後益々大腸癌が増えると言われていますから、全く人ごとではありませんね。
ストーマには筋肉がないので、排便を自分ではコントロールできません。気が付いたら500ミリリットルぐらい入るパウチが一杯になっていて、それをトイレに捨てに行くとき、「コントロールできないその重さって、『生きている』という感じがすごくします」とエマ先生。私がトイレに駆け込んで排便・排尿したときに感じる「あぁ、スッキリした」感とはもっと違う「生死をかけて手術して生き抜いた証としての重み」なのでしょう。
エマ先生は「今、ストーマをつくることを考えている方には、絶望しないで欲しいと思います。確かに、不便なことはあります。眠いのにトイレに行って便を処理しないといけないとか、外出先でもオストメイト対応の多目的トイレを探さないといけないとか(オストメイト対応トイレを探せるスマホアプリがあります)。でも、これで生きられるのですから」と訴えておられます。私がこれまでお会いしてお話をうかがったことから言えば、女性よりも男性の方が絶望して、手術を拒んだり、自分で命を絶ったりする人が多いようです。エマ先生の訴えが、今悩んでいる人たちに届きますように‼
NHKの特集で2度エマ先生が登場された番組への反響に、オストメイトやその家族からの意見が多く届き、「その方たちが、オストメイトであることを隠して生きなくてはならない社会なんだということを改めて痛感させられて、オストメイトに限らず、外見では分からない障害を持っている方たちがたくさんいることをもっと浸透させないと、本当の意味で社会は変わらないと思いました」とエマ先生。
「健常者であっても、ハンディキャップのある方でも、『この人も何か事情を抱えているのではないかな』と想像するような思いやりをお互いに持てるようになればいいなと思います」と語るエマ先生の思いは、私がこのブログで書いてきたことと共通します。
落合さんから、これから一番やりたいことを問われたエマ先生は「告知の仕方を変えていくこと」と答えられました。医師はストーマをつくる前の患者さんに「最悪の場合、ストーマになります」と告知することが多いそうです。その表現で患者さんは「最悪かぁ」と落ち込んでしまいます。「でも、最悪なのは死ぬことであって、ストーマをつくることで生きられるのだから、本当はそのことこそ患者さんに伝えないといけないんだと思います」とエマ先生。
「医療は希望であるはずなのに、その希望を手術前からむしり取られたら、苦しいですよね。医師には、ストーマをつくることは、患者さんに希望を与えることなんだと知ってほしい」と医師であり、オストメイトでもあるエマ先生の言葉に「もっともだ」と強く頷きました。
このメッセージが、担当する医師たちにしっかり伝われば良いなぁと心から願います。